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三文芝居

日々の戯言を列ねていきます。
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ご無沙汰!派生の⑦

「ダメダメダメ!これ以上は近付いちゃいけないって言われてるんだって」
霊亀は激しく頭を降ってネウロの要求を拒絶する。
あまりにジタバタと暴れるので、甲羅が揺れて後ろからは悲鳴が聞こえる。
「居るか居ないかも判らん神になぞ従う必要は無いだろう」
「それを言ったらダメだろネウロ。兎に角岸から見えたらいけないんだよ。大体浅瀬に乗り上げたら動けなくなるんだから」
「チッ!貴様…強情だな」
「ネウロほどじゃないよ」
「もういい」
ネウロは飛び上がり、紗金の綺羅めきを残して空を渡った。
行く先は東州。
最初の餌場の小さな邨。

崖の間の隙間からひょこりと顔を出して周囲を確認する。
大丈夫。まだ人の気配はない。
娘は手桶を抱えて木々の陰に隠れながら川を目指す。
大勢で水を汲みに行ければ一番良いのだが、それでは目立ち過ぎてしまうし、何より自由に動き回れる人員の方が少なかった。
娘は出来うる限り迅速かつ慎重に水を汲んで茂みにうずくまる。
「お父さん…」
ポロリと、抱え込んだ手桶に雫が滴り落ちた。
娘は名を弥子(ニィシー)という。
弥子の父親は3日前に事故で亡くなった。
地面が崩れるほどの大地震で倒れた家から弥子を庇ってくれたのだった。
ぐしぐしと乱暴に涙を拭って、弥子は立ち上がる。
今はこの水を必要としている人たちがたくさんいる。
「早く…帰らないと」
水を零さないよう、弥子は駆け出した。

上空からの景色は酷い有り様だった。
家は崩れ、畑は荒れ、野山は巨大な爪に引き裂かれたように豊かな緑は見る影もない。
死臭が、蔓延している。
ネウロはひとまず羽を休めるため森へと降下した。

「弥子ちゃん、大丈夫?少し休んだ方がいい」
「笹塚さん…」
水桶を抱えて戻った弥子を出迎えたのは、邨で刑吏を務める笹塚だった。
弥子がやっとの思いで運んだ桶をヒョイと取り上げてしまう。
洞の中には命からがら助かったものたちがいる。
洞の奥では刑吏長の笛吹と同じく刑吏で遠眼鏡の匪口、商人の早川が小さな灯りのもと首を揃えて話し込んでいた。
「そんな灯りで、あんたたちもっと目ェ悪くなるよ」
「五月蝿い笹塚ァ!我々は重要な話をしているのだ!」
キイキイと金切り声で笛吹が癇癪を起こした。
しかしそれを笹塚があっさりと切り捨てる。
「五月蝿いのはお前だ。みんなの傷に障る。それより、弥子ちゃん休んでもいいだろ?朝からずっと水汲みしてる」
「そんな!私、大丈夫です!」
「えー、桂木休むんなら俺も休みたいんだけど?」
匪口が茶化して口を挟むので、笛吹の額には青筋が浮かび上がった。
「貴様は仕事が終わってからだ!馬鹿者!」
「じゃあ、弥子ちゃんは今日これから休みってことで」
「…今は一人でも人手が惜しい。倒れられては困るからな」
当事者の弥子を置いて話が進む。
オロオロと成り行きを見守る弥子の肩に、笛吹の部下である筑紫が肩掛けを載せた。
「っつー事で、君は明日まで空きね。暗くなる前に戻れば外に出てもいいし」
「ちょっ…」
「ああ、また仕事しようとしてたら寝ててもらうよ。いいね?」
笹塚の言葉の端に物騒な臭いがしたので、弥子は慌てて首肯する。
ここはもう諦めて大人しく従うしかないと悟った弥子は邨の幹部たちに頭を下げた。
「すみません…ありがとうございます」
「用が済んだなら下がれ。気が散る」
素直でない笛吹の言葉に少し口端を歪め、弥子は背を向けて洞窟を出た。
考えるべきことを取り上げられ、押し込んでいた感情が顔を出しそうになる。
それでも。
泣いているばかりでは何も解決しないなら、と弥子は歩き出した。


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派生の⑥

注:根暗ロ



「ねえねえ、見て!あの気だるい感じのなんとも言えない色っぽさ」
「ホント!おやつれ具合がまた」
「でもでも!最近は誰が行っても遊んでくださらないのでしょう?」
「確か…沙依をお相手になさって以来だったかしら?」
「ええっ!?ネウロ様ったらそういうごシュミだったの?」
「ねえ!朱寧、どうなの?」
川の畔で洗濯をしている朱寧を囲んで、若い精霊たちが姦しくさえずっている。
「う、んー…そうね。確かに最近は洗い物が減りましたよ」
敷布とか、肌着とか。
「や~ん!ネウロ様どうしちゃったの!?」
「まさか…不の」
「いやああああああ!止めて止めて!」
「さぁさぁ、邪推はいいから手伝ってくださいな。夕方には雨が降るそうだから」
朱寧は盥いっぱいの洗い物を抱えて振り返る。
ネウロ自身は風評に頓着する方ではないのだが、それ以上は背びれや尾ひれのみならず角や足まで付きかねないと判断し、朱寧は乙女の会話に水を差した。
単純に、彼女の良心からの行動である。
娘たちは、はぁい。とよい子の返事をして木々の枝に洗い物を通した紐を渡していく。
風の娘たちが布の林を飛び跳ねながら巡り、花の化身たちがそれを撫でながら歌うと、春の薫りを大いに含んで洗濯が完了するのだった。

主殿の窓外にやかましいほどの女たちの悲鳴混じりの会話を聞きながら、ネウロは欠伸を洩らした。
例の一件以降、あの少娘が我が胸に占める割合が増えた。
否。
既に多すぎて溺れそうになっているというのに、後から後から途切れること無く溢れてくる。
もう、余っている場所など無いのに。
渦巻く想いが思考を、体を麻痺させて、動くことすらままならない。
「……」
「随分と浮かない顔をしているのね、ネウロ」
入り口でそう問うて阿耶が入ってくる。
「……何用だ」
「あら、ここは用が無ければ来られない場所じゃないわ」
「当然だ。…天帝(ちち)の代理で在らせられる天后の御来訪を拒める者がどうしてこの島に居りましょうか?」
「……素晴らしい棒読みだわ、ネウロ。それに用ならちゃんとあるわよ」
困ったような仕草で肩を竦め、豪奢な着物の裾を引き引き長椅子に歩み寄ると、ネウロの肩に手を触れた。
「かつては人の女だった身から言わせてもらうとね、ぶつかってみるのもいいものよ」
「……」
「それに、凰の件は」
「ご助言傷み入ります。しかし……」
ネウロは言葉を切って、顔を伏せたまま立ち上がる。
阿耶の手を逃れ、堂室を出る刹那足を止めて吐き捨てた。
「貴様には関係ない」

ネウロの歩みは速い。
それは単に尺が平均より長いせいでもあったが、今日は普段の3割増で苛立っていたからである。
御殿の前で洗濯物と戯れる乙女たちに目もくれず、森の下草を踏みしだき、暫く歩いて小さな湖に出た。
「沙依」
特に用は無いが、主を呼ぶ。
返事は無い。
「沙依は此処には居りません、ネウロ」
「藍爲か」
沙依の代わりに雨滴の女が音もなく現れてネウロの後ろに立った。
「…外界は、まるで貴方の為に存在しているかのような有り様でしたよ」
藍爲は薄く笑みを浮かべると、いつものように唐突に話を切り出す。
「どういうことだ?」
「どこぞの呪者が力を誇示しようとあちこち破壊して回っているようです。愚かなことですが」
「そうか」
雨と共に世界を廻る女は、時に外の様子を教えてくれる。
水の眷属たる彼女が自発的に言を発することは珍しく、どうやら沙依の機嫌が良いらしい。
「ネ~ウロっ!」
小さな、草を踏みしめて駆ける足音が聴こえたと思うと同時に、後ろから抱きついた体は軽い。
「なになに~?寂しくなって俺に会いに来た?」
あからさまな喜色を声に載せて、沙依は我が輩を下から覗き込む。
「フン。天地がひっくり返るな」
「ちぇー。何だよ、つまんねーの」
別段用がないと答えれば口を尖らせて身を翻し、己の従者に飛びついた。
「藍爲~、ネウロがいじめる~」
「それは仕方がありません。彼は飢えた子どもなのですから」
藍爲は柔らかく沙依を抱き留めると、さらさらとその頭を撫でる。
沙依は猫のように体を擦り付けて藍爲に甘えてみせた。
その姿に数日前の贋娘の媚態が重なって、ほんの少しだけ鳩尾の奥が痛みを訴える。
あれは、少娘の華奢な体を抱き寄せているのは何故我が輩ではない―――。
「飢えた、ね。なるほど、読んで字の如くって感じだ」
振り返り、沙依は訳知り顔でニヤリと笑う。
「まあ?いつでも相手してやるから慰めて欲しかったらおいでよ。待っててやるよ―――この顔で」
沙依はあの娘に顔を変えると、艶(いろ)を添えて典雅に微笑んだ。

「必要ないな。二度と」
ネウロは遠くを見るように目を細めて答えた。
今度こそ、間違えなかった。
沙依ではない。
あれは沙依では足り得ない。
只是弥。
貴様だけだ。

ネウロはクルリと踵を返すと、居殿に戻るために足を出した。
「あ」
沙依の僕が声を上げると、二対の瞳が彼女を見やる。
「ん~?なに、藍爲?」
「いえ。……先日、この顔に似た娘を見たなと」
「何だと?」
ネウロは、外界の様子に知らず声を荒げる。
「へぇ~、珍しいじゃん。藍爲、そういう話ちっともしないから外のことなんかすぐ忘れちゃうのかと思ってたよ」
心底感心したように沙依が口を開くと、藍爲は軽蔑の眼差しを主に向けた。
「貴方と一緒にしないでください」
従者の辛辣な一言に打ち拉がれた沙依は、蒼褪めた顔でヨロヨロと水際にしゃがみ込んだ。
それを尻目に、ネウロは掴み掛からんばかりの勢いで藍爲に詰め寄る。
「どこで見た」
「東州の沿岸近い邨(むら)で」
返事を聞いて複雑な心地に襲われる。
確かにあの娘に出会ったのは山から海が見渡せる場所だった。
会いたくない。筈がない。
幾夜夢に見て過ごしたことか。
会って、この手で触れて、抱き寄せられたらどんなにいいだろうか。
しかし、この体はあの頃とは似つかないほど変わってしまった。
きっと、『烏』には思えない。
「しかし…」
雨雲の紫を髪と瞳に宿した女が柳眉を顰めて顎に手をやる。
「何だ」
「呪者たちが襲撃していたのは沿岸地方でしたから…」
全身の血液が凍りついたようだった。

「…なんで教えちゃったんだよ~」
血相を変えて跳び去ったネウロが進んだ方向に目を向けながら、沙依は恨みがましく頬を膨らました。
「望んだのは貴方ですよ」
まるで意に介さず、涼しい顔で藍爲は沙依の隣に腰掛ける。
「え~?」
「彼が遊んでくれなくなったら困るのでしょう?」
非難の目を向ける彼に視線を合わせ、ゆっくりと口端を上げる。
「…あー…うん。ダメだな、藍爲には適わないや」
沙依は降参とばかりに髪をかき混ぜ、ポテンと藍爲の肩に頭を預けた。
「お誉めに預かり光栄です」
二人の周囲を風が駆け抜け、終わりかけの霜の季節を連れ去っていく。


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派生の⑤※注意

今回の派生に関しての注意。
今回のネウロは、変態×女々しい×ドM?×最低×変態×変態×変態でお送りいたします。
サイネウ要素有り。
ミリュウ様のネウロはこんなんじゃねぇ!という方はお読みにならないことをお勧めします。
いいぜ!掛かってこいや!という方のみお進みください。


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派生の4話目

「……」
何やら体中がむず痒い。
異変を感じて目を開けると、褥に散らばる無数の黒羽。
「これ…は?」
「あらぁ、これはお目出度いこと!」
「何用だ、阿耶」
衣の長い裾を引きずりながら滑るように寝台に坐る我が輩に近づいた天后・阿耶は、バサリと絹の掛布を我が輩に被せた。
「今日はお祝いにしなくては」
「祝い?なぜだ」
「勿論、鳳が成鳥になったお祝いですわ。朱寧」
手を叩いて侍女である天女を呼んだ阿耶は直ぐに雑事を言いつける。
「鳳にお召し物を。それから広間に宴の用意を」
「かしこまりました」
艶やかな黒髪の侍女は速やかに我が輩の着付けをしながら笑う。
「おめでとうございます、鳳」
「それほど珍しいことではないと思うが」
着せかけられる長衣の肌触りに戸惑いながら問う。
「みんな鳳の成長が嬉しいのですわ」
「フン」
「でも…凰がいないのはやはり寂しいですわね」
「凰?」
「はい、鳳の番になられるお方です」
「番…?」
何だそれは。
そんなもの、必要ない。
全てが定められているものだと?
莫迦莫迦しい。
刹那、少娘の顔が脳裏をよぎる。
(ウー!)
はて、あの娘の名は何と言っただろうか。
「ネウロ」
席についたものたちが一斉に天后を見る。
天后は転化を覚えた鳳の額に手を当てて宣言する。
「天帝は鳳に名前を授けられました。これよりそなたの名はネウロです」
鳳――ネウロは慣例に従い軽く頭を下げた。
途端に巻き起こった歓声の嵐に驚いて目を剥いた。
「ネウロ!」
「ネウロ様ぁ!」
風の精が楽を奏で、花の精が舞い踊るのを冷めた目で見やりながら、ネウロは眸はあの少娘の面差しを探していることに気付かない。


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妄想の③

「ねぇ、烏(ウー)?何でご飯食べないの?」
「貴様…何度言えば解るのだ?我が輩を下賤なカラスと一緒にするな」
「え~?だって真っ黒でカラスみたいだもん」
「貴様の頭にはやはり海綿が詰まっているようだな。見るがいい、この艶やかな羽を」
ウー、と呼ばれたその鳥は綿布団を敷き詰められた籠の中でバサリと翼を開いてみせた。
羽色こそ同色であるが、カラスのそれよりも複雑な彩を返す黒羽に、月光を集めた衿羽。
身丈よりも長い尾羽は先端に向かって漆黒、群青、瑠璃、翡翠と鮮やかな変化を呈している。
鋭い眼光を放つ猛禽の眸は深い千歳緑で、弥子の知る中に同じ姿を持つものはいない。
「うん、ウーが一番奇麗」
「当然だ。我が輩は鳳なのだからな」
「ホウ?鳳ってなに?ウーの名前?」
「貴様は、少塾に行っているくせに知らんのか?」
「むぅ~…だって難しいし、誰かさんが勉強させてくれないじゃん」
頬を膨らませてそっぽを向く弥子の肩に飛び乗って烏が笑う。
「まぁそう落ち込む事もあるまい。どうせウジ虫の如き頭脳で考えても無駄だ」
「ウジ虫の如きって何よぉ」
「言葉通りだが」
怒った弥子が烏を振り払おうと暴れるので、烏はケタケタと笑いながら籠に戻った。
「不変的弥好。」
「え?」
「何でもない。さて、我が輩明日にはここを発つぞ」
「…ご飯も食べてないくせに?」
「人間の食い物なぞ要らん」
体を震わせながら烏は思う。
多種多彩な動植物が蔓延る蓬莱島に在りながら、そのどれをも己の糧とすることが適わなかった鳳は、腹を満たすために島を飛び出した。
そして彷徨の挙げ句、遂に行き倒れて人の子に介抱されるという珍事にみまわれることになったが、おかげで自身の求めるものを見出した。
悪意の潜む混沌。
それが鳳を満たすものだった。
あの日、叶絵に宿題を教われなかった弥子が呪いながら半紙を黒く塗り潰したので鳳は初めての食事にありつけたのである。
以降、今日まであらゆる手を講じて弥子の勉学の邪魔をして狡猾に食糧を得てきた鳳は、実のところ飢えてはいなかった。
但し、それは幼鳥の鳳に相応しい悪意であり、成鳥たる彼を満たすものではないと賢しい鳳は理解した。
そして、鳳は次なる糧を求めて世界を翔るのである。
「不変的弥好。」
呟き、笑う。
世界が幸福に満ちていると教えてくれた少娘に感謝を込めて。
そのままでいい。
そのままの、心優しい貴様に、幸あらんことを。
「何言ってるの?」
「さぁな。戯言は終いだ。我が輩は寝るぞ」
「あ、待って」
籠の中でうずくまる烏に弥子の細い腕が伸びてくる。
「最後くらい、一緒に寝ようよ」
寝台に横たわった弥子の腕は温かで振り払うには少しばかり惜しく、やってきた睡魔の誘うままに二人は桃源郷の夢を観る。


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HN:
紫藍夕亜
性別:
女性
自己紹介:
最近、某様のおかげで紫藍(桃兎)夕亜が定着しつつある妄想だだ流れの管理人。

現在超絶不親切不定期更新中。
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