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三文芝居

日々の戯言を列ねていきます。
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Miniature Garden《4》

覆い被さる大きな体。私の腕を片手でひとまとめに押さえつけて、どんなに抵抗してもびくともしない。口を塞がれて声も届かず、涙で濁った暗闇にナイフの白刃が閃いた。

「―――っ!!?」

ヤコは喉が詰まったように、声にならない悲鳴をあげて目を覚ました。
呼吸は忙しなく、激しい動悸に身を縮めてうずくまる。決して柔らかくはない枕に顔を押し付けて涙を誤魔化そうとするのは、ヤコが泣いていては同室のアカネに要らぬ心配を掛けてしまうから。もっとも、アカネも自分がヤコを気に掛ければ、ヤコは頑なに傷を隠そうとするので敢えて当たらず障らずの距離を保っているのだが、ヤコはそれを知らない。

ポンポン

誰かが肩を叩く。涙が治まるのを待って顔を上げると、思った通りの人物がこちらを覗き込んで微笑んでいた。

「アカネちゃん…」

アカネちゃんはピラリと私に紙片をさしだした。

[紅茶淹れたけど、飲む?]

きれいな読みやすい文字は書いた人の性格を顕しているようで安心する。

「…うん」

無理に作った笑顔にも、ふんわりと湯気のように微笑んですぐにテーブルを引き寄せてくれる。アカネちゃんはコトリと紅い液体の注がれたカップを私の前に置くと、またサラサラと何かを書き出した。

[大丈夫。ここに居れば神様が守ってくれるよ]

読んで、カップに口を付ける。温かい紅茶はほんのりと甘く、喉を落ちると胃から全身にぬくもりが染み渡る気がした。

[だから、いつかでいいから、ヤコちゃんの心を教えて?全部じゃなくても、少しだけでも、分かち合ったら楽になると思うから]

文面からアカネちゃんの気持ちが沁み出して来るようで、思わず目を逸らした。
私はまだ、自分に向き合う覚悟もないのに…。

「アカネちゃんは…」

俯いて、紅に映る鏡像を見つめる。不細工な、泣きそうな顔の女が自嘲っていた。

「強くて、優しいね」
「…」

私はカップを置いてベッドから降りた。クロゼットを開いて修道着に着替える。
鏡は見ないようにした。また、あの醜い貌が浮かんでいるかと思うと、おぞましさに叫び出してしまうかもしれない。

「アヤ様に謝ってくる」

シスターベールを被って振り返る。今度はちゃんと笑えているだろうか?例えそれが偽りでも。

だけど、逃げている今のままじゃ、神様にお仕えする資格もない。

「私、アカネちゃんみたいに強くないや」

吐き捨てるようにしてドアノブに手を掛ける。
ごめんね。
まだ話せそうにないよ。
でも、

「いつか私の話、聞いてくれる?」

私は返事を聞かずに部屋を出た。夜の冷めた空気が、私の澱んだ思考を押し流してくれることを期待して、聖堂への通路を駆け抜ける。



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紫藍夕亜
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女性
自己紹介:
最近、某様のおかげで紫藍(桃兎)夕亜が定着しつつある妄想だだ流れの管理人。

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