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三文芝居

日々の戯言を列ねていきます。
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PC欠乏症



逢魔が時。
血の色みたいに気持ち悪いくらい真っ赤な一昨日のトワイライト。
魔界の空ってこんな感じっぽい気がする。

仕事以外でパソコンに触りたいいいいい!
おっかしいなぁ。
あたしの仕事、事務でもIT系でもないはずなんだが。


ちょっと載せるものがないので企画倒れしそうなオリジナルを一つ。


むかしむかし、あるところに人形師の男がおりました。男の作る人形はどれも愛らしく美しく、まるで本物の人間のように精巧でした。町の小さな女の子から、立派な貴族まで誰もが男の人形を気に入っていました。
男にはまだ幼い娘がおりました。名をエトワールと言い、艶やかな黒髪に淡いグリーンの瞳の、それは可愛らしい人形のような少女でした。

ある日、男は王様のお城に招待されました。王様は男に言いました。
「王女のために人形を作って欲しい」と。男は考えました。王女はとても気難しく我が儘で、王女の好みの人形を作るのは難しいと思われたからです。難しい顔で考え込む男に、王様はまた言いました。
「他の者ではだめなのだ。王女はそなたの人形を欲しがっているのだ」と。
それから王様はこうも言いました。
「王女は病気で長くない。娘を喜ばせてやりたい」のだと。
同じく娘を持つ男は王様の願いを叶えてあげたいと思いました。
「…わかりました。私でよろしければお請け致しましょう」
男が答えると王様は大層喜びました。そして早速お城に用意した工房で人形を作るよう言いました。しかし男も家を空ける訳にはいきません。
「申し訳ありませんが、私の家で作業をさせて頂きたいのです」
「王女は城の外には出られない。従ってここで作業をして欲しい」
王様の言い分はもっともでしたが、男がお城で仕事をしてしまってはエトワールが一人のなってしまいます。男の妻、エトワールの母親は何年も前に死んで、もうおりません。
「王様、ほんの二週間だけ時間を頂けませんか?」
男に娘がいることを知った王様は快くそれを許してくれました。男は大急ぎで家に帰りました。

家に帰ると男は娘のために人形を一体作りました。エトワールが寂しくないように、一人で留守番が出来るように。もういない母親の代わりに、エトワールの身の周りの世話をする人形を作りました。
そばにいられない自分の代わりにエトワールを守れるよう、自由に動くための芯(ほね)は背骨から全て人間と同じ形に作りました。顔はエトワールが怖がらないよう、自分の顔と妻の顔を混ぜ合わせた微笑みのペルソナをつけました。髪はエトワールが好きな陽光のような柔らかな金色に、瞳はエトワールのお気に入りの澄んだ翠色のガラス玉を使いました。しかしいくら男が望んだところで所詮は人形。人間のように自ら動くことはありません。命を吹き込むことはできませんでした。
そうして時間だけが無情に過ぎていき、明日にはお城に向かわねばなりません。男は仕方なくベッドに潜り込みましたが、なかなか眠ることができません。三日月が西の空に沈むころ、男に話しかける者がありました。
「お前の願いを叶えてやろうか?」
男の枕辺に立った黒い長衣が言いました。
「お前が望むならどんな願いも叶えてやろう」
「…どんな願いも?」
不気味に思いながらも、男は問い返さずにはいられませんでした。男が答えたことに、深く被ったフードで顔の見えないはずの黒衣が口を三日月形に歪めた気配がしました。
「ただし、願いに見合うものを寄越せ。それが条件だ」
明らかに喜色の混じった声が応えると、男は少し考えてから口を開きました。
「……命を持った人形を作りたい」
いつしかその願いは男自身のためのものになっていました。
今までに作られたどの人形よりも人間らしく、形を真似するだけではない最も美しい造形物。そんなものを作ることが出来たなら。
男は言いました。
「あの人形に命を」
壁際の椅子に座らせた、エトワールのために作った人形を指しました。
「フム」
黒衣は首を回して人形をチラリと見ると、鼻を鳴らして右の袖を探り、濡れたように輝く黒い石を差し出しました。
「これを心臓の位置に入れるがいい」
男がおずおずと両手を差し出すと、黒衣はその手に石を載せました。石はゴツゴツとして無骨な形をしていました。
「対価はそうだな……お前の命を貰おうか」
男が手の中の石を転がして見ていると、黒衣が言いました。
「命……ですか」
男は絶望したように息を詰めました。
「そうだ」
「今すぐに、ですか」
「何か問題が?」
黒衣は首を傾げました。
「仕事が、残っているのです」
男は恐怖で喘ぎながらやっとのことで声を絞り出しました。
「だから?私には関わりのないことだ」
黒衣は冷たく言い放ちました。
「私の命ならいくらでも差し上げます。用が済んだらすぐにお呼びしますので、どうか今はご容赦を」
男は固く目を閉じて頭を下げました。頭上で長く息を吐く音がして、男は肩を震わせました。
「………良いだろう。今日は機嫌がいい。特別に待ってやる。ただし、用が済んでも大人しくその命差し出さねば生きていることを後悔させてやるぞ。いいか、我が名はルシフェルだ」
黒衣は男の肩に骨ばった手を置くと、屈み込んでその耳に囁きました。嗄れ声が男の耳を撫でると、彼は今度は祈るように目を閉じました。
目が醒めるとそこにはもう黒衣は居ませんでした。しかし男の手にはしっかりと黒い石が握られていました。男は勢いよく起き上がると、着替えもせずに人形に向かいました。シャツの前を開け、胸板を開き、肋骨を外してぽっかり空いた空洞に石を差し込みました。すると石から蔓のような糸のような線が延び、人形の空っぽの胴の至るところに張り付いて蜘蛛の巣のようになりました。男が石から手を離すと、それは一瞬鋭く発光したのち、心臓の拍動のように規則的に鈍く光り出しました。男が呆然とそれを眺めていると、頭上で空気の漏れる音がしました。
深呼吸のような呼吸音が。
男はハッと顔を上げました。人形のガラス玉の瞳がキラリと朝日を弾きます。
「おはようございます、御主人」
人形は天鵞絨のように耳障りの良いテノールで挨拶しました。
「おお…」
男は感極まってその場で崩れるように突っ伏して泣きました。

「おはよう、おとうさん!」
程なくしてエトワールが男を起こしにやってきました。
「おとうさん?どうしたの、どこかいたいの?」
エトワールは人形の前にうずくまる男に、心配そうに声をかけました。
「いや、何でもないんだ。それよりも、ほらご覧、新しい家族だよ」
「かぞく?」
鼻を啜りながら男が人形を示しました。エトワールは首を傾げました。
「おはようございます、お嬢様」
心地よい天鵞絨のテノールが響いて、エトワールは目を見開きました。
「おやおや、綺麗なおめめが零れてしまいますよ」
人形は笑いながらエトワールの頭を撫でました。やんわりと、まるで壊れもののように扱われてエトワールは花のように笑いました。
「ねえ、おとうさん」
エトワールは人形から目を離さずに、男に問いかけます。
「なんだい?」
「おなまえは?」
「そういえば決めていなかったな。エトワールが付けてあげなさい」
男はお互いを見詰め合う人形と娘を見て小さく笑いました。
「むぅ~…。じゃあ、ノワール。だめ?」
エトワールは窺うように首を傾げて人形に問いました。
「いいえ。ですが、何故?」
「えっとね、くろくてきれいだから」
そう言って人形の胸に手を伸ばし、彼の心臓とも言える石に触れました。
「とってもきれい」
「そうですか。でも、貴女の髪も綺麗なノワールだ」
「おそろいね」
人形が柔らかな黒髪を撫で梳くと、エトワールは嬉しそうにはにかみました。
「じゃあ、ブライ」
「『真の』?」
言葉の意味を汲み取って、人形は首を傾げました。
「わたしは、エトワールだから」
「………『星』には闇が必要だから?」
「そう。いや?」
「いいえ。ブライ=ノワール、良い名を戴きました」
男には微笑みのペルソナを着けただけの人形が、嬉しそうに目を細めたように見えました。
「さぁ、エトワール。これからはブライがお家に居てくれるよ。お父さんが仕事に行っている間、お留守番できるね?」
男はエトワールの肩を掴み、くるりと向き直らせて問いました。
「うん!」
エトワールは大きく頷きました。

男はお城で王女様のために人形を作りました。王女様はとても気まぐれで、意見をコロコロ変えては男を困らせましたが、十年かけてようやく王女様の望み通りの人形を九体作り上げました。王様はとても喜び、男とその家族に褒美をくださいました。そして、みんな幸せになりました。

めでたしめでたし?



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紫藍夕亜
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女性
自己紹介:
最近、某様のおかげで紫藍(桃兎)夕亜が定着しつつある妄想だだ流れの管理人。

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