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三文芝居

日々の戯言を列ねていきます。
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Alice

白状しよう。
今なら。

愛しているよ。
誰よりも君を。
誰よりも何よりも。
あの人よりも。

確かに言える。
君を、愛している。

道を違えたわけじゃない。
俺の役目がここまでだった。
それだけのことだ。
あの、悪魔のゲームの水先案内に選ばれたのが、既に汚れ切った俺だったと言うだけ。
あの、腐り切ったゲームから君を綺麗なまま掬い上げるための。

なんて幸せな役目だったのだろう。
きっと君を守るなんて、誰でも出来ることじゃない。
俺だからこそ出来たのだと思いたい。
あの人に似ていた君のおかげで、あの頃が戻ってきたみたいだった。
幸せだった。

「好きな人が、いるんです」
はにかみながらそう言った君はとても綺麗だった。
「優しくて、かっこよくて、いつも私を守ってくれて、とっても頼りになる、すごく、素敵な人なんです」
そうか。
それは良かった。
綺麗な君の隣に立つのはそういう綺麗な奴が似合うだろう。
汚れた俺なんかではなく。

「でも、きっと、その人には届かないんです」
「どうして?」
「その人に、私は、どう考えても釣り合いません」
「そんなことないさ」
「だって彼は、大人で、ちっとも私のことなんか見えてないんです」
「そんなこと…」
「その人、おもしろいんですよ。私以外の人のことはすごくよくわかるのに、私のことは全然わかってくれないんです」
「それは、そいつの目が節穴なんだな」
「ふふっ…。きっと、私のこと勘違いしてるんです、その人。私、そんなに綺麗なんかじゃないのに」

君は、綺麗だ。
無垢で純粋で、光に愛された存在だ。
俺なんかが汚してしまうわけにはいかない。
もう、ここでおしまいだ。
俺が君を守る役目は。

「そんなことないさ」
慰めるためじゃない。
君の存在のを肯定するためにそう言うと、君は少し悲しそうに笑った。

「それじゃあ、これで」
もう会うことはないだろう。
言外にそう込めて背を向ける。
「あきやまさん、」
「サヨナラ」
逃げるように言い捨てて、後ろ手で扉を閉めた。
いや、逃げたのだ。
せめて、綺麗な君の思い出の中では綺麗でいたかった。
ずっと一緒にはいられないのなら、せめて思い出だけでも。

一人の方が多かった部屋なのに、何故だかやたらと広く感じる。
認めよう。
君を、探してしまう。
触れた手の温かさも、抱き寄せた時に感じた香りも、撫で梳いた髪の柔らかさも。
すべて忘れることなんて出来るわけがないとわかっていた。
それでも、君が幸せになるためには、汚点である俺が一緒にいるわけにはいかなかった。

幸せだった。
だけど、同時に苦しかった。
犯罪者の俺が一緒にいることで、苦しむ君を見たくなかった。

君を泣かせたくなかったんだ。

白状しよう。
今なら。
君を、誰より、愛している。
だから、どうか。
君よ、どうか幸せに。
君と共に生きる役目を、与えられなかったことだけが、俺の唯一の心残り。



古/川/本/舗のAliceを聴いて。

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HN:
紫藍夕亜
性別:
女性
自己紹介:
最近、某様のおかげで紫藍(桃兎)夕亜が定着しつつある妄想だだ流れの管理人。

現在超絶不親切不定期更新中。
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